山の管理が行き届き、良質な桧が育つ「兵庫県多可町」
国土面積の7割を森林が覆う日本は桧が育つ土壌に恵まれています。なかでも兵庫県の内陸部に位置する多可町は豊かな自然にあふれ、昔から天然の桧が生育する地域として知られてきました。
多可町には千ヶ峰、笠形山、妙見山などの山々が連なり、杉原川や野間川などの清らかな川が大地に潤いを与えています。この多可町では江戸時代には桧の造林がはじまり、いまでは町の山の約7割を桧が占めるほどです。
日本一の酒米「山田錦」発祥の地、先染めが特徴の「播州織」、手すき和紙の「杉原紙」……山と海の恵みによって多可町にはさまざまな地場産業が生まれてきましたが、さらに「国産桧の産地」としても長く育まれてきたのです。
多可町の山が桧の産地になり得た理由――その背景には林業家の地道な努力がありました。
桧が木苗から成熟した成木へと生長するまでには、じつに多くの人手と労力が必要となります。不要な樹木の除去や枝打ち、下草刈り……多可町では長年にわたり、林業家が山を丁寧に管理し、育ててきたからこそ、良質の国産桧が育つ産地として維持されてきたのです。
引き締まった年輪に見る「多可町産桧」の品質の良さ
桧ととともに、住宅用建材として使われる代表的な木材のひとつに杉があります。一般に杉は植林してから40年ほどで収穫できるのに比べて、桧はそれよりもさらに長く、50~60年程度はかかります。つまり1本の桧が建材として使われるようになるまでには途方もない時間と手間がかかるのです。
そうやって手塩にかけて育てられた多可町産桧には特長があります。「均等に刻まれた年輪」です。これは桧の生長に必要な環境が長年にわたり、適切に整備され続けた証拠です。
適度な間伐などによって山が整備されると、地面にまで均等に光が入り、桧の生育環境が良くなります。そうやって良好な環境で育ち、樹齢を重ねるほど桧は年輪が引き締まり、節も少なく、まっすぐな良材に育つのです。
1本の国産桧が価値ある成木として育つまで半世紀以上――。多可町産桧は、林業家による気の遠くなるような地道な積み重ねにより、付加価値の高い木材として愛されてきました。